野口能也の関心アロケーション1

どんな企業なのか、株価は適正なのか、あまり調べなくとも、よく考えなくとも、事前に決めたルールに従ってロボットのように、あのバフェット*1の成績を物真似しようという一風変わった試みについての論文*2が、しばらく前の話なのだが、知人から送られてきた。百聞は一見に如かず、まずは下記のグラフをご覧いただきたい。


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quoted from: Cliff Asness’s Staff Built Him A Robot Warren Buffett ≪ Dealbreaker: Wall Street Insider



下から順に、株式市場の全体、実際のバフェット率いるバークシャー社、そしてバフェットロボの、1976年からの運用成績である。直接的に比較できるように、リスクの水準は同程度になるように調整されている。

驚かれたろうか。もちろん仮想的なテストは、取引にかかるコストや市場インパクトを含まず、あくまでもシミュレーションに過ぎないわけだが、それにしても印象的な絵である。もったいぶらず、包み隠さず、この著者達が何を実行したのかについても解説しよう。ここでのバフェットロボは、要するに、1)借金してレバレッジし、2)低ベータ(低リスク)で、質の高い株式に投資した。それだけである。

ベータとは、その株式の、株式市場の全体に対する感応度のようなもので、例えば昨今の堅調な株式市場では、いくつかの証券株は強く上昇しているが、そうした銘柄が高ベータ株式である。これらをアンダーウェイトして、逆に、あまり株式市場に感応しない低ベータの株式をオーバーウェイトする。また同時に、順調に利益を出し、株主に還元している株式をオーバーウェイトし、そうでない株式をアンダーウェイトする。これだけだと、どうしてもポートフォリオは低リスク気味になってしまう。長い目で見たとき、上昇相場についていくためにも、借りてきたカネも突っ込んで、積極的にリスクをとる。

バフェット自身、このようにシンプルなフレームワークが、彼の哲学の裏で機能していることを、おそらく認識していたであろうことは、例えばバークシャー社の94年の年次レポートからも読み取ることができる。
"Ben Graham taught me 45 years ago that in investing it is not necessary to do extraordinary things to get extraordinary results."

「並外れた成績を出すのに、必ずしも並外れた行動は必要ないと、グラハムは45年前に教えてくれた。」

バフェットロボが実際のバークシャー社と異なるのは、遥かに広範の株式について、ほとんどあらゆる銘柄について、同様の判断を行い、アクティブなベットを実行する。単位リスクあたりのシミュレーション成績が良好な理由は、この点にあると考えてよい。シカゴ大学のファーマとフレンチが92年に発表した、株価を3つのファクターで説明するシビれるモデルがあるのだが、これを6つのファクターにまで拡張し、著者達はバフェットの「模倣」を試みた。先に指摘した(ベータと質の)2つのファクター以外については、中立的に、つまり株式市場の全体と似せてある。小型/大型といったサイズや、バリュー/グロースといったスタイルについては、あまり個性のないポートフォリオに調整されているわけだ。

誤解していただきたくないのは、この論文の著者達は、バフェットへの最大限の賛辞を隠さない。彼は半世紀!も前に、この原則と信念に基づいて投資を実行し、誰も届かない遥かな成績を出し続けてきた。そうした本物の実践について、ずっと後になってから、机の上で計算機を回してシステマティックに説明できたとしても、そのことは偉業の輝きに、一点の曇りすら与えない。

他方で、なぜ低ベータの株式が良好なパフォーマンスを記録するのか、やはり40年以上も前に、既にブラックが指摘していることも忘れられない。とてもシンプルな話で、さまざまな理由でレバレッジが制約された投資家にとって、高いリスクを欲するときには、どうしても高ベータの株式を組み入れざるを得ない。その分だけ、リスクの見返りは潰されてしまうだろうという話である。ふたりの偉人が、ここで出会う。

一点だけ、僕が指摘しておきたいのは、レバレッジ制約とバフェットの秘密は、長く続いた奇跡の後に、こうして一部が明らかにされた。今ここを読まれている皆さんは、少なくとも一部の皆さんは、「俺もやってみよう」という気持ちになっているに違いない。そうして我々が未来を向いて動くほど、低ベータ株式のプレミアムは、逃げ水のように消えていくだろう。未来の金融市場の姿をつくり出すのは、バフェットや多くの偉人から学んだ、我々自身なのだ。

*1:
http://fiftyplus.jp/equilibrista-3/
*2:
http://www.cfainstitute.org/learning/products/publications/contributed/Pages/buffett_s_alpha.aspx

WRITER

野口能也|@equilibrista
有限会社(オキシスタジオ)代表。社内に調査室を設け、投資とリスクに関するコンサルティング業務を行う。主要顧客はこれまでに、国土交通省、JP Morgan、星野リゾート、マネックス証券等。投資とリスクに関する知識を一般に広げることで、ビジネス環境の効率を高め、豊かな社会の実現に寄与することを目指す。

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